どっかで、時間が止まってるのかも

あれか。タイムリープか。
いや、タイムリープじゃなくて、“ターン”。
北村薫さんの小説『ターン』。随分昔に読んだ、この小説、すごく好きだった。

交通事故がきっかけで、同じ1日を延々と繰り返している主人公。

……いや、でも、私は交通事故に巻き込まれた覚えはない。でも、同じ1日を延々と繰り返していて、もしかしたら気付いていないだけかもしれない。年も取らない、時間も思考も止まったまま。
ま、私のところには、“偶然かかってきた救いの電話”は来ませんでしたがw

f:id:natsusakana777:20170901215301j:plain


そういえば、幼少の頃、母親とうまく意思疎通できなくて、「具合悪いの?!」「どこが悪いの?!」とすごい剣幕で決めつけられて、何も言えなかったら、病院連れていかれて、念のためと入院させられた。
その時に、たまたま隣のベッドに入院していたおばちゃんが、いろいろ話しかけてくれたけど、全然返事ができなくて、でもそれでもすごくやさしくて、大丈夫?とか言ってくれて。最後には、「ジュース飲む?」と紙パックのオレンジジュースを買ってきてくれた。戸惑っていると、「お母さんには内緒ね」とこっそり渡してくれたのだ。私は、衝撃を受けた。ショックを受けるくらいに感動した。お礼を言ったかどうかも覚えていない。

私の母親は、ジュースを買ってくれさえしなかった。私は内心、ジュース飲みたかったけど、そんなことを母親に言ったことはなかった。そういえば、家(実家)の冷蔵庫には牛乳しか入っていなくて、飲むなら牛乳飲みなさい! ジュースなんてダメ! 買ってあげないんだから!という無言のプレッシャー。正直、私は幼少の頃から消化器系が弱くて、牛乳はあまり飲めなかったし好きではなかったのだ。
その時の、隣のベッドのおばちゃんが、女神様みたいにみえた。貴重なジュース、買ってくれるなんて! 全然知らない他人の私に!
その病院が、ホントに天国のよう(←比喩ですよ)にみえた。
それまでは、“親たちのいる家”しか知らなかったけど、そんな天国みたいな病院から戻ると、“親たちのいる家”が、ひどく暗くて閉塞感があって陰湿な場所にみえた。いつも喧嘩ばかりしている親たち。その喧嘩の罵声が、私を責めたててるみたいで、耳をふさいで必死でラジオを聴くふりをしてたっけ。

ええと、何の話でしたっけ。
そう、北村薫さんの『ターン』。この小説、すごく好きだった。
ファンタジーっぽいけど、でもファンタジーとはちょっと違う。
いきなり二人称で始まる冒頭にも、ビックリ仰天。二人称の小説なんて、それまで見たことなかったし! ガッツリ掴まされてしまった。
主人公の女性が閉じ込められた時空。そこへ、ある日、偶然かかってきた間違い電話(注意:有線の固定電話です)。「待って、切らないで!」と必死に引きとめる主人公。相手の男性に、事情を話し、助けてほしいと話す。その相手の男性は、最初は訝しがっていたが、やがて主人公が本当に“閉じ込められている”ことを知り、救おうと動き出す。もちろん、お互いにそれまで実際に会ったこともないし、顔を見たこともない。なのに、主人公のことを、あれこれ手を尽くして必死で救おうとする。電話は切ってはだめ。つなげたまま。だって、それは、命綱。糸電話の糸みたいな細いつながり。その糸は、もしかしたら赤い糸だったりして……? そうやって、せっかくつなげておいたままの電話を(電話料金、大丈夫?という心配はさておき)、男性の家をたまたま訪れた知人が、「電話、外れてるよ?」と電話を切ってしまい……。
↑こんな甘い感じの印象しか持てなかった当時の私; この物語、実際はそれほど甘々ではありません。“悪人”も出てくるし。
そして、読み終わった後、なぜか「うおおおおおお!!! 今という時は、今しかないんだあああ!!!」という不思議なアドレナリンが出て、何かやらなきゃと思ったけど、その時はもう夜だったので、結局、部屋の掃除とかやったりして。

それから……それから、どうしたっけ。
何をしていたんだっけ。
もしかして、私も同じ1日の時空に閉じ込められて、同じ1日を繰り返しているだけだったりして。
年も取らない、時間も思考も止まったまま。

ええと、何の話でしたっけ。
たぶん、どっかで時間が止まっているのかも。
ということが、言いたかったのです。

北村薫さんの小説について。
当時、暗闇の中にいたような私にとっては、眩しいくらいにものすごく明るくてあたたかく、「そうか、同じ世界なのに、こんなに明るい世界もあるのか!」とそっと教えてくれたような作品たち、という記憶があります。
ちなみに、『ターン』は、“時と人”シリーズの3部作のうちの1つ。主人公も設定も違いますが。
第1作『スキップ』、第2作『ターン』、第3作『リセット』。
やっぱり、『ターン』が一番好きでした。

ターン (新潮文庫)

ターン (新潮文庫)

 

 ❰おわり❱