夏魚、空を行ってみる

Thank you very much for the beautiful time!

あの寒くて暗い夜みたいに

突然だったみたいに思われるかもしれないけど、実はそうでもないんです。
憎しみの塊があって、その場所はいつも暗くて寒い夜のようだった。
そんな暗くて冷たい泥沼のような世界に、いつでも引き戻されてしまう。

リアル社会では、『自分の好きなこと』は絶対に言わないと決めていた。
言ったら最後、ぼろぼろに踏み潰されて、笑われてばかにされるだけだから。
アニメとかもそう。
それならと、ネットで、リアル社会では言えないことを少しずつ出していった。
だけど、ダークサイドの自分が出てきて言う、「もっとあるだろ。吐き出したいものが。もっとずっとどす黒いものが、あるだろ」
そうだった、リアル社会では絶対に言えない、『自分の中のどす黒いもの』がずっとあった。
憎しみの塊の、もうどうにも手が付けられないような部分。
でも、そんなこと吐き出してしまったら、周りがドン引きして、周りから誰もいなくなってしまう。
だから、どうにか抑えてきた。
でも、文章にしてみたりすると、どうしても滲み出てしまう。自分でも分かる。
どうしても、どす黒いものが出てきてしまう。
なんだかもう、抑えるのも取り繕うのも、しんどくなってきた。つらくなってきた。
これじゃあ、意味ないじゃないか?
ネットなんだから、もう全部、どす黒いものも何でも、吐き出してもいいんじゃないか?
そうして、なんか爆発したみたいに、ゲロゲロゲローと、吐き出した。
たぶん、全部じゃないけど。
まだまだ奥深い泥沼みたいなものはあるけど。

そして。
吐き出せば楽になれたのか?というと、そうでもない気がする。
しょうもない自己嫌悪に襲われたりして。
でも、世界はそれほど変わらなかった。いつものように、朝がきて、昼になって、夜になっただけで。
例えば、太陽が昇らずに暗い世界のまま、なんてことはなかった。

私は本当に、憎しみの塊でできていると思う。
それは、小さい頃から、どんどん積み重なっていた。
「いつかは抜け出せる」「いつかはこんなものから解き放たれる」と思っていた。
でも、やっぱりどんどん積み重なるだけだった。

高校の頃、本当に親が憎くて、「親を殺したら、楽になれる」「親を殺せば、自由になれる」とか思って、実行しようとした。
真夜中に台所に行って、包丁を持って、今、寝室でぐうぐう寝てる親をグサグサと突き刺して殺そう、そうすれば、自分は自由になれる、楽になれる、足に絡みついた鎖が外れて自由になれる、と思った。
でも、結局は、実行には移せなかった。
本当だろうか? 親を殺せば、楽になれるだろうか?
警察に捕まることは、別にどうでもよかった。ただ、それを実行したら、本当に自分は楽になれるだろうか? 自由になれるだろうか?
それがよく分からなかった。
結局、何度か真夜中に台所に行ったけど、やっぱり実行には移せなかった。
ただ、“そう思っていた証拠”として、台所のテーブルの真ん中に包丁を置いておいた。
翌朝、おそらく、親は、どうしてテーブルの真ん中に包丁があるのか不思議に思っただけだろう。

随分前の、仕事先で、いじめにあっていた時のこと。
主犯格の奴が憎くて憎くてしかたなかった。奴さえいなくなればいいのにと切実に思った。
帰りの駅のホームで電車待ちをしていた時。
「もし、奴が前に先頭で並んでいて、目の前に奴の背中があったら、確実にホームから突き落とすのに」と思い、頭の中で何度もシュミレーションした。
電車がホームに入ってくる直前を狙って、奴の背中を思い切り押す。
その後、どうする?
とりあえず、この場から離れて、駅の外へ出たほうがいい。あの階段を駆け上がり、改札口を出て、外へと走る。
暗い夜の中、どこでもいいから走りに走って、「やったぞ! やったぞー!! 奴を殺してやった!!」と叫ぶ。
そうすれば、気は晴れるだろうか?
それは分からない。
結局、そんな機会もないまま、追い出されるように仕事は辞めた。
でも、本気で思っていた。寒い夜の駅のホームで、「ああ……寒いな……」と思うのと同じように、「ああ……憎いな……殺したいな……」と思っていた。

でも、そんなことは、リアル社会ではひた隠していた。
周りの人の話を聞いて適当に相槌を打ち、ヘラヘラと笑った仮面を付けているだけだった。自分のことは絶対に話さない。
周りからは、「おとなしい」とか「やさしい」とか思われてるみたいだ。でも、本当は違う。
笑っちゃうくらい、違う。と、自分では分かってる。
たまに、察しのいい人がいて、「偽善者!」とか陰で言っている。その通りかもしれないけど、ちょっと違う、とも思う。
もし、実際に、憎い奴を殺して、犯罪が明るみに出たとしたら、きっと、周りの人は言うだろう、「そんなことをするような人には見えなかった!」「信じられない!」とかなんとか。

でもそれらは、全部、過去のこと。
昔のことなのに。
どす黒いものに捕らわれて、いつまで経っても抜け出せない。
あの暗い寒い夜に、いつでも引き戻されてしまう。

『普通』のふりを必死でしてるけど、でも実際は『普通』なんかじゃない。
今だってそうだ。本当は、全然『普通』なんかじゃない。

❰おわり❱